kisaki treckers Mar '98
仏蘭西で草野球。 ─海外遠征版─

紀行・野球の試合のご報告 高岡淳四
 いよいよ、初公式戦です。ポワチエのグラウンドで、隣町のシャテルローを迎え撃つことになりました。
 ポワチエとシャテルローの間にはフチュロスコープという映像を主題としたテーマパークがあります。やっていることは、三次元映像だのバーチャルリアリティーだので、10年前に出来た時には、フランスが誇る世界に先駆けた未来映像センターでした。フランス人が小学校の遠足、会社の慰安旅行、家族旅行で一生に三回はやってくるということで、観光資源になっています。
 が、うちらポワチエの住民はこんなもの
「だっせー」
と思っています。そもそもバーチャルリアリティーなんていうのは、きょうび、ゲーセンにいけば楽しめるし、三次元映像などというものは、ファミコンでも実現されています。
 実はこの施設を巡っては、根深い問題があります。確かにフュチュロスコープは人を集めるのですが、観光客はポワチエが誇る中世の教会を見ないで帰ってしまいます。その上シャテルローからの方がアクセスが楽ということがあるらしく、大抵の場合、シャテルローからフュチュロスコープに行って宿をとり、帰りはシャテルローかポワチエということになります。つまり、ポワチエは素通りされるか、下手をすると寄ってももらえない、ということになります。
 フチュロスコープの建造にポワチエとシャテルローとどちらの共同体が余分に資金を提供したかはよく分かりませんが、ポワチエにすればこれは面白くない。人集めのために変なものを作ったせいで、観光客はむしろ減り、集まった人はなんにもないシャテルローの町に寄っていくということになります。シャテルローのせいではないのだけど、ポワチエの人々はこの町に自然に嫉妬して、
「田舎者め」
とバカにすることになります。外人さんから言わせてもらえば、
「目くそが鼻くそを笑う」
とはまさにこのことだ。はは。
 こういうシリアスな問題(?)をはらんで、試合は開始されたのでした。

 前日、監督のローランが
「明日は10時45分集合で、試合は12時開始だ」
と言っていたので、朝早くから出かけてきました。
 あいにく小雨のちらつく天気でした。前夜からの雨でベースの周りには水たまりができています。
 ウォーミング・アップを軽く済ませてからオーダーの発表。4番サードです。
 いいですか、繰り返しますよ。いくらフランスの野球レベルが低いといっても、トゥール=ポワチエ間の戦いで名を知られたポワチエの代表チーム(他にはないけど)の4番でサードです。4番でサードといえば、藤村に掛布。花があるのです。それじゃあ、僕は「ミスター・ポワチエ」か?

 でも、ここでチーム内での僕の立場を冷静に分析してみましょう。
 打つ方は、確かにチームで一番ミートがいいし、打球も早い(あくまでも、周りとの比較の問題ですが)ので
「へへ」
という感じです。
 守備の方は、ずっと練習してきたポジションです。最初は、
「おお、サードか。かっちょいい。」
と思っていました。でも、練習を通して、他にサードに取り組まされている選手を見ていて
「違うぞ」
ということが分かりました。どいつもこいつも、図体がでかいのですが、腰高でどこか
「ぼーっ」
としているのです。要は、
「ボールをとってファーストまで投げることが出来ればアホでも務まる」
のがサードという前時代的な基準で選ばれたようです。子供の頃、守備がものすごく下手で少年野球のレギュラーを取り逃がしたことを思い出してしまいました。
 先発はローラン。語学学校に通う日本人のしげ(22歳)を押さえに温存する万全の体勢です。
 ところが、12時を過ぎてもシャテルロー軍はグラウンドに到着しません。帰ってしまって、相手が棄権したということを連盟に届ければよさそうなものですが、みんな試合をしてみたいのでしょう。延々と待っています。
 12時半にシャテルロー軍がやってきて、ようやく1時に試合開始。試合前の雄叫びをやろうということで集まったのですが、キャッチャーのニコが
「オーエタチ・イーシュバン!」
で行こう、といいます。
「はあ?」
と聞き返したら、
「日本語なんだけど、発音が悪い? ヤスが音頭をとってよ。」
と言ってきました。成る程ということで
「俺たち!」
とやると
「イーシュバン!」
という声がグラウンドに響きました。サードから走っていって、ファーストから走ってきたシャテルローの選手たちとマウンドのあたりでハイタッチ。いい感じです。

 さて、いよいよ試合開始です。ポワチエは後攻め(何故かベンチは三塁側)。一回の表、シャテルローはローランの立ち上がりを攻めます。速い球も変化球もなく、
「正面に打ってもらって取る」
タイプのローランは、先頭打者に三遊間を抜かれます。
「トーナメントの最初の方は全員に守らせる」
というのがローランの信条なので、セカンドには、僕とペアを組んでサードの練習に取り組んでいた
「ぼーっ」
とした兄ちゃんが守っています。兄ちゃんの腰高を見すかして、ランナー走る。キャッチャーのニコが構える。兄ちゃん、セカンドに入る(上出来だ)。投げれば際どいタイミングだけど、ニコ、投げない(好判断だ)。かくして、四球やエラーやワイルドピッチで2点先行されます。
 この回に守っていて気になったのですが、審判の判定が怪しいのです。公式戦とはいっても、地方野球のレベルでは、第三者の審判を呼んでくるだけの予算も人材もなくて、主催者側で一人主審を出すということになっています。塁審はいません。で、うちのチームのパスカルというごっついおやじが貫禄たっぷりで主審をしているのですが、えらく低い球をストライクと言ったかと思えば、
「セーフだろう」
というタイミングでファーストにかけ込んだ選手に
「アウト」
の判定を下したりしているのです。でも、勝負事ですから、
「今度ビジターの時に仕返しされるだけのことさ」
とポーカーフェイスで臨むしかありません。
 審判に関しては、1回裏の私たちの攻撃で
「あっちゃー」
と思ってしまいました。(ジュニアのナショナルチームにいたけど肩を壊した、という相手のピッチャーに僕が三振した、というのは取りあえずおいておきましょう。)ぼてぼてのゴロでバッターがファーストにかけ込めば、
「アウトだろう」
というタイミングで
「セーフ」
の判定。3ボールになれば、さっき
「ストライク」
になったよりも真ん中よりの球で
「ボール」。
パスカルは悪い人ではないので、わざとではないというのは分かるのですが、審判の技術が駄目な(見るべきところを見ていない)上に、判定に願望が混ざっているようです。注意したいところですが、そんなことをすれば、相手に言質を与えることになってしまいます。
「それはないだろう」
と思ったのは、ランナー
一、三塁でバッターがファールを打ったところ、三塁ランナーがホームに帰ってきてしまいました。当然、ランナーをもといた塁に戻さなくてはならないのですが、よく分からないうちにプレー続行。気がつけば一塁ランナーも二塁にいます。相手のチームから抗議があればノープレーになるのですが、なかったので1点入ってしまいました。もちろん、抗議があろうとなかろうと、審判はノープレーにしなければならないところです。記録はどうついているのか知りませんが、恥ずかしいことです。かくして、3点とって逆転でした。

 ここまで書けば分かるように、審判も含めてど素人の野球です。細かい勝負の流れを追っていっても、興味を持たれないでしょうから、以下、印象に残ったところだけを紹介します。

 シャテルロー軍は、紳士的でした。当然判定に対する不満はあり、時に抗議が入りましたが、パスカルが
「裁くのは私だ」
と決め文句(態度は立派だ)を言えば、それ以上にごり押しをすることはありませんでした。このような状態でしげがピッチャーに交代したのです。
 キャッチャーのニコは、しげに盛んに肩口から入るカーブを要求しました。うん、きっと変化球を投げさせてみたいんだろう。シャテルローのバッターは、球が手から離れるやのけぞって見送ります。子供だましの危ない球なのですが、変化球に慣れていない相手には効果抜群でした。相手のサードコーチャーは、
「肝っ玉かあさん」
という感じのおばちゃんです。変化していることが分からないらしく、さかんに
「なんでもありだ」
を繰り返します。それもこれも、味方にも不信感を与えるような判定を繰り返してきた審判が悪い。

 そんなこんなで、大勝ちしていたのですが、しげが突然乱れて、四球を連発。ワンバウンドとかキャッチャーの頭上を越える球には審判もどうしようもなくて、押し出しの連続で逆転されてしまいました(ここで、12-13。はは。)。後は際どい勝負です。

 4時過ぎになって、うちのチームが逆転しました。制約では、3時間過ぎて5回終わっていれば次の回には入らないので、審判はサヨナラ勝ちを宣告するべきところです。なのに、スリーアウトになるまで試合をやらせて、
「チェンジ」
と言ったのです。ローランが抗議に行ったところ、
「僕は時計を持っていない。でも4時なら。」
というので試合終了を宣言。さすがにこれにはシャテルロー軍も黙ってはいませんでした。
「時計を持っていない審判が何で開始時刻を知っているか? うちの時計では4時半が終了時刻だ。」
という理屈もおかしいのですが、ビジターにあまり失礼なことはできないということもあってか(充分失礼だったと思うけど)、試合続行です。
 この回は相手チームが二塁打を打ちました。敵ながら、外野の頭を越えるほれぼれとする当たりでした。いいバッターだったと思います。彼は、果敢に3塁への盗塁を試みました(盗塁する場面じゃないけど)。ニコから僕にいいボールが来て、我ながらよいタッチ。際どいタイミングでアウトが宣告されました。際どいタイミングだから、コーチャーの肝っ玉母さんは当然
「セーフ!」
と叫んでいます。ランナーは自分の足先を見ている訳でなかったらしく、触れたのがベースなのか僕のグラブなのかが分かりません。僕を睨み付けて、
「セーフだ!」
と言ってきました。
「君はアウトだよ。審判がそう言っているじゃないか。」
と言うと悔しかったらしく、ヘルメットをたたきつけて帰っていきました。肝っ玉母さんは
「それは紳士的ではない」
と言って選手を叱ります。僕にしても、せっかくいいプレーだったのに、不信感を持たれるのは審判のせいだと哀しい気持ちになりました。

 その裏の攻撃は4時15分から始まりました。ローラン監督には
「遅れてきたシャテルローがそもそも悪い。3時で終了でも良かったんだ」
という頭があります。彼はここで
「とっておきの」
手を思いつきました。
「僕がサードコーチャーで滅茶苦茶なサインを送るから、バッターはじっと見ているように。」
時間稼ぎというやつで、もっと的確に言えば
「牛歩」
というやつです(おのれはロッテの金田か?)。こういうのって、恥ずかしいのだけど、素人ほどこういうことをやりたがるようです。まあ、隠し玉が一つもなかっただけましだけど。これには、相手も怒りまくって、さんざんにヤジを飛ばしてきました。ローランも
「これが俺の返事だ」
と言い返します。そんなことをしなくても、攻撃が続き、2点程入ったところで4時半。審判がゲームセットを宣告しました。

 勝ちどきだ、と再び僕の音頭で
「おーれたち、イーシュバン!」
をやって、ハイタッチで試合終了。そもそも1時間も遅刻したのが悪いとはいえ、納得いかないことが多かっただろうに、大半のシャテルロー軍の選手は笑って応じてくれました。審判とも握手をしてベンチに戻っていきました。大変紳士的なチームでした。ただ、ヘルメットをたたきつけた選手だけがハイタッチも握手も拒否しました。ポワチエ軍の一員として、いい選手をこういう気持ちにさせたことが申し訳ないです。

 18-13で勝つには勝ちましたが、後味が悪い。牛歩は戦術としても、審判にはなんとかしてもらわないと、と思いました。身びいきなのは仕方ないけど、それ以前に野球を分かっていないのです。個人的にはヒットも一本出たし、盗塁も3つ決めたので、満足ですが、こういうことが続いたら興味が薄れていくよな。